私ごとですが、囲碁教室に通い始め、70歳を超える方とお話しさせていただく機会がありました。その方は、老眼がひどくて、せっかく買った囲碁や今流行りの漫画の単行本が読めなかったのであげるよ、と言って下さいました。
とても有り難い話ではあったのですが、同時に、老眼がひどくなると大好きな漫画が読めない程になってしまうということに驚き、大きな不安を覚えました。
30年後には3人に1人が高齢者
現在、日本における人口約1億2千万のうち65歳以上の人口は約3500万人。高齢化率は27.7%になっています。
さらに30年後には3人に1人が65歳以上の時代になるそうです。
昨今は高齢化に向けた労働のあり方、年金、介護、健康についての議論やニュースなどを耳にしますが、そこには現役世代の意見が大きく反映され、高齢者自身の意見は反映されにくいように感じます。
30年後には私自身が、70歳となります。だからこそ、今のうちに印刷会社として何かできないかを考えさせられました。
紙媒体の醍醐味を残したい
年齢を重ねていけば一人で車を運転して外出し、体力を必要とする遊びは難しいでしょう。悲しい高齢者の事故の話は絶えません。そのうえ、屋内で楽しめる読書にも老眼で大きな支障をきたしてしまいます。
先に話した老眼で漫画を諦めた方は、老眼鏡とルーペを駆使して読もうとしたそうです。しかし、元が小さい単行本、さらに漫画独特の細かい描写やコマ割りなどが、なおさら読みにくく、面倒になってしまったとのことでした。
ならば電子書籍で読めばいいのではないだろうか?電子書籍ならフォントや画像を大きくでき、視覚の弱い人でも読書しやすい部分もあるはずです。
しかし、好きな本は紙媒体で読みたい。紙媒体での読書は、読んだページと読み残しのページへの手の感覚と重み、その残量に起こるだろう変調への期待と、次の紙をめくるときの手間と音に醍醐味があります。そして、好きな本を、棚に並べ眺め、好きなときに手に取ることができる喜びがあります。視覚以外の感触や、読書後にも楽しみがあります。
大活字本の需要
大活字本をもっと利用することはできないでしょうか? 大活字本とは、視覚の弱い方や高齢者にも読みやすいように、一般的な文庫本よりも文字や行間を大きくしたもので、最近では、図書館でも大活字本のコーナーが増えているそうです。
漫画の大活字本はあまり目にしませんが、コマを大きくする必要があるかもしれません。老眼の世代でも漫画を好む人は多そうですので、大きくして読みやすくすることで、さらに多くの読者に目にしていただける機会を得ることもできそうです。
ただ、従来の単行本を大活字本にすると当然ですが、ページ数が増えるので2~3倍の量にはなってしまいます。漫画の場合は版も大きくなるでしょう。書店で購入してから持ち帰るのも大変ですが、本を直接玄関先で受け渡すようなサービスもできると良いですね。
ただ、大活字本のニーズは高まっているけど、出版点数はまだまだ少なく、本好きのヘビーユーザーにとっては物足りない状況なんだそうです。
高齢者にも読みやすい紙媒体を
大活字本ではページ数が増えたり、分冊になって冊数が増えるので、当然ながら制作コストが上がってしまいます。需要はありそうですが、制作される大活字本が少ない理由はそこにもありそうです。
しかし、消費者の高齢化がより一層進むのであれば、書籍や漫画だけではなく、広告、ダイレクトメール、チラシなども対象者ごとに読みやすくなるように、フォントや画像のサイズ、色などを変えることも考える必要があるのではないでしょうか? 1つのデータを対象者ごとに変えるため、バリアブル印刷の技術も利用できそうです。
各企業・行政・自治体等では、社会的責任として、高齢者や視覚が弱い方にも読みやすい印刷物が届くよう、大活字本やユニバーサルデザインなどを積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか?