
2026年5月21日、文部科学省は中央教育審議会のワーキンググループに、大学など高等教育機関の新たな評価制度案を示しました。その後の議論を経て、6月3日に「議論のまとめ」が取りまとめられ、2030年度の導入に向けた具体的な制度設計が進んでいます。
柱となるのは、学部・学科ごとに教育の質を4段階で評価し、その結果を社会に分かりやすく公表するという方針です。報道では「三つ星評価」と呼ばれていますが、評語そのものは「星のような記号の数など、高校生や企業をはじめとした社会にとって分かりやすいもの」とされている段階で、呼称はまだ確定していません。
学生の成長をどれだけ促し、成果につなげているかを軸に評価することで、「教育の質」をこれまで以上に見える化しようとしているのが、今回の制度のねらいです。
少子化が進むなか、大学は「選ばれる理由」を、そして高校は「安心して勧められる大学」を意識せざるを得ない状況になっています。
この記事では、大学の広報・企画・入試担当の皆さまを主な読者としつつ、高校の先生方にとっての活用のヒントも交えながら、新制度のポイントと、広報・印刷物・Webサイトに求められる変化を整理してみます。
新制度の概要と「見える化」のインパクト
新たな評価制度では、学部・学科を単位として、教育の質を次の4段階で評価します。
| 三つ星 | 学生の成長につながる優れた取組を通じて、高い教育成果を挙げている学部等 |
| 二つ星 | 学生の成長につながる優れた取組を通じて、高い教育成果が期待される学部等 |
| 一つ星 | 高等教育機関として求められる質保証の水準に達している学部等 |
| 要是正 |
法令等で求められる教育活動の水準に達していない学部等 |
※「三つ星」~「一つ星」という呼び方は、現時点では例示です。今後の制度設計で具体的な評語が決まります。一方で、最下段の「要是正」という評語は「議論のまとめ」で明記されました。当初の報道段階では「要改善」と伝えられていましたが、機関自らが是正しなければならないことを強調する趣旨から、より強い表現に確定しています。
2つの視点で評価される
学部等の評価は、次の2つの視点から行われます。
- 質保証の視点…法令等で求められる教育活動の水準に達しているか。4つの基本的な方針の下に、7つの評価基準・15の評価項目が設定されています。
- 質向上の視点…学生一人ひとりの能力を最大限高めるために教育活動の水準を向上させ、教育成果を明確に挙げているか。
教育成果の根拠としては、試験・ルーブリック・eポートフォリオ・アセスメントテストなどの直接評価と、全国学生調査や振り返りシートなどの間接評価を組み合わせた把握が求められます。加えて、卒業生や就職先への調査など、卒業後の活躍を示すデータも評価の材料になります。
また、段階別評価は他大学との比較で決まる相対評価ではなく、絶対評価を基本とすることが示されています。「他がどうか」ではなく「自学部がどう取り組み、どんな成果を挙げたか」が問われる仕組みです。
評価の単位・周期・担い手も変わる
現行の認証評価は、大学全体を対象とする機関別認証評価(7年以内)と、専門職大学院等の分野別認証評価(5年以内)に分かれていました。新制度ではこれらを統合し、機関全体の確認と学部等ごとの段階別評価を一元的に実施したうえで、受審後6年以内の再受審を義務付けることが前提とされています。
評価の担い手も二層構造になります。機関全体の評価と学部等の段階別評価を総合的に担う「総合評価機関」に加え、特定の分野を専門的に評価する「特定分野評価機関」を文部科学大臣が認証し、後者の評価結果をもって総合評価機関の評価に代えられる仕組みが想定されています。学部等の評価は、文学関係・工学関係・保健衛生学関係など21の学位分野を踏まえたピア・レビューが基本となります。
結果はどこで公表されるのか
評価結果は、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構に設置されるデータプラットフォームで一元的に公表され、学生等がさまざまな要素でソート・検索できる形で提供される見通しです。あわせて、「知の総和答申」で提言された新たな情報公表基盤「Univ-map(ユニマップ)」(仮称)でも、評価結果が公表されることになっています。
公表にあたっては、評価結果だけでなく、所在地、授与される学位、「養成する人材像」、「卒業認定・学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)」といった学部等の基本情報も併記され、進路選択に活用しやすい形が目指されています。
これまで「大学全体」の認証評価が中心だったものが、「学部ごとの教育の質」にフォーカスして、分かりやすい評語を付けて示される。しかも検索・比較できる形で公開される。この点が、大きな転換だと言えます。
「要是正」の重みを正しく理解する
4段階のうち最下段の「要是正」は、単に「もう少し頑張りましょう」という意味ではありません。「議論のまとめ」では、次のような厳しい位置づけが示されています。
- 「要是正」は、法令等で求められる教育活動の水準に達していないことを意味し、学位授与機関としての正当性に疑義があるとされる
- 文部科学省は、当該機関に学部の新設等を認めない制度的措置を講じるべきとされている
- 改善の取組がない、不十分、または見通しがない場合は、学校教育法第15条の規定に基づく措置を含む厳しい是正措置が講じられる
- 6年を待たず、可及的速やかに改善したうえで再受審することが求められる
さらに注意したいのは、質保証の基準に達していない学部等を一つでも有する機関には、機関としても「要是正」が付されるという点です。1学部の課題が大学全体の評語に及ぶため、全学的な内部質保証と学部単位の改善を、どう連動させるかが問われます。
高校現場から見た「4段階評価」の使い方
評価結果が公表されると、高校の先生方にとっても、進路指導の際の判断材料が一つ増えることになります。
一方で、「星の数だけ」で進学先を決めるのは危うさもあるため、現実的には次のような使い方になるのではないでしょうか。
評価で"絞り込み"、パンフレットとWebで"中身確認"
上位評価という情報で候補をある程度絞り込んだうえで、大学の入学案内・学部案内やWebサイトを通じて、「どんな教育方針か」「どんな学生が育っているか」を確認する二段階利用が現実的です。
特に新制度は「養成する人材像」と「卒業認定・学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)」を起点に評価する仕組みですから、大学がこの2つをどう言語化しているかは、そのまま進路指導の材料になります。
「要是正」は制度上の意味を踏まえて判断する
前述のとおり、「要是正」は法令等で求められる水準に達していないという判断です。「改善途上」といった穏当な意味合いではないため、生徒に勧める際には、その意味を踏まえたうえで、大学が公表している改善状況や再受審の見通しを確認する慎重さが必要になります。
評価結果はあくまで入口であり、大学が出している説明資料や広報物の中身を読み解いていくことが、高校現場での丁寧な進路指導につながります。
このような使われ方を想定すると、大学側の広報物には、評価結果を伝えるだけでなく、その背景にある教育の工夫や改善の姿勢を、高校生と高校教員の両方に伝わる言葉で説明する役割が求められます。
荒川印刷としての支援:大学と高校の"間"をつなぐ広報へ
名古屋を拠点に大学・学校法人の印刷物やWebサイト制作を行っている荒川印刷としては、この「学部別4段階評価」導入の流れを、大学と高校のコミュニケーションを見直すきっかけとして捉えています。
学部別パンフレットで「教育の質」を翻訳する
評価の対象となる「養成する人材像」やディプロマ・ポリシー、そして教育成果を、「高校生と高校教員にも伝わる言葉」に翻訳した学部別パンフレットを企画・制作します。
数字だけでなく、授業の具体例、学生・卒業生のストーリー、高校での学びとのつながりを盛り込むことで、進路指導の場でも紹介しやすい資料を目指します。
高校向け説明用リーフレット・資料の整備
「オープンキャンパス用」「高校訪問用」など、高校の先生が生徒に手渡ししやすい形のリーフレットや資料を設計します。
新評価制度の位置づけ、自学部の強みや改善の方向性を簡潔にまとめることで、「この大学はこういう教育をしている」と説明しやすいツールになります。
Webサイトでの「高校教員向け情報」の見える化
大学サイト内に、高校教員・進路指導の先生向けの情報をまとめたページを設け、評価結果や教育の特徴、進路実績などを一覧しやすい形で掲載することも有効です。
印刷物とWebを一体で設計することで、紙からWebへの導線、高校から受験生への情報共有をスムーズにすることができます。
6年サイクルを前提とした広報物の設計
新制度では受審後6年以内の再受審が前提とされます。評価のタイミングに合わせて、自己点検の成果や教育改善の歩みを蓄積・可視化していく設計にしておくと、次の受審時にも、日々の学生募集にも、同じ素材を活かすことができます。
危機ではなく「対話のきっかけ」として
2030年度からの導入が目指されているこの新制度は、大学にとってプレッシャーである一方で、自学部の強みや改善の取組を社会に開く大きなチャンスでもあります。
高校の先生にとっても、「評価だけでは見えない大学の姿」を、広報物や説明会を通じて確認するきっかけになり得ます。
評価結果が公開される時代だからこそ、数字や記号だけでなく、その背景にある「学びのストーリー」を丁寧に可視化していくことが、これからの大学広報には求められます。
荒川印刷では、印刷物とWebの両面から、大学・学部それぞれの個性や取組が伝わるコミュニケーション設計をお手伝いしています。広報ツールの見直しや、高校への伝え方の整理についてお考えの際は、問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
受験生・保護者のみなさんへ
学部別の4段階評価は、大学選びの新しい「ものさし」にはなりますが、評価だけで進路を決めてしまうと、本当に自分に合う大学・学部を見逃してしまうかもしれません。
この評価は、他の大学と比べて順位をつけるものではなく、それぞれの学部が掲げた目標にどれだけ到達しているかを見る「絶対評価」です。だからこそ、「その大学が何を目指しているのか」を知らないと、評価の意味も読み取れません。
評価はあくまで参考情報の一つとして受け止め、パンフレットやWebサイト、オープンキャンパスでの体験と組み合わせながら、「ここで学びたいと思えるかどうか」を確かめてほしいと思います。
上位評価の学部でも、そうでない学部でも、その背景にはそれぞれの歴史や、先生方の考え方、改善の努力があります。
数字やラベルの印象だけで判断せず、「どういう教育をしているのか」「どんな学生が育っているのか」を、高校の先生や保護者とも相談しながら、一緒に見ていくことが大切です。
これからは、「偏差値だけ」でも「評価だけ」でもなく、複数のものさしを持って大学を選ぶ時代になっていきます。
荒川印刷としても、大学のみなさんと一緒に、そうした進路選びを支えられるような情報発信やツールづくりに取り組んでいきたいと考えています。
※本記事は、中央教育審議会大学分科会「教育・学習の質向上に向けた新たな評価の在り方ワーキンググループ」が2026年6月3日に公表した「議論のまとめ」時点の内容に基づいています。今後の学校教育法の改正等により、内容が変更される可能性があります。(2026年7月28日更新)
参考:文部科学省「教育・学習の質向上に向けた新たな評価の在り方ワーキンググループ 議論のまとめ」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/056/mext_00001.html



